目 視野が欠ける・視界が歪む
視野の一部が欠けたり、狭く見えたり、歪んで見えたり、目に異常が起こると見え方にもいろいろな症状があらわれます。しかし目の異常は気付きにくいものも多く、例えば視野が狭くなるようなものには、片目だけに症状があらわれると、もう片方の目が自然に見えづらさを補ってしまうので、異常に気付かないこともあります。早期発見するためには、ときどき片目で視力や視野を試してみる自己確認が必要です。
視野の異常は、その見え方によって疑われる疾患が異なります。視野の一部が欠けるようなときは緑内障や網膜剥離(もうまくはくり)、網膜動脈閉塞症(もうまくどうみゃくへいそくしょう)が疑われます。また真っすぐなものがカーブを描いて見えるときは乱視による屈折異常が考えられますが、規則正しいマス目などを見ると歪んで見え、しかも物を見ようとすると真ん中が暗くなってぼやけたりするときは加齢黄斑(おうはん)変性症などの疾患の可能性があります。こうした目の疾患以外にも、視神経炎や視覚の伝達経路を障害する脳梗塞や脳腫瘍、片頭痛などによっても視野に異常が起こることがあります。
緑内障は眼圧が上昇し、視野が狭くなったり、視力が低下する疾患です。緑内障の中には眼圧が急上昇するタイプと徐々に眼圧が上がり視野の狭窄が進む最も頻度の高いタイプ、それと一方で眼圧は高くないにも関わらず緑内障になる正常眼圧タイプが増えています。とくに急上昇するタイプでは目の激痛、頭痛や吐き気、嘔吐などをともなう急性緑内障を起こし、光の周りに虹がかかったように見えることがあります。このような場合には発症48時間以内に早急に処置をしないと、失明の可能性が高くなります。
網膜が眼底から剥がれる疾患です。網膜剥離では、視野が急に狭くなったり、視界の浮遊物の数や大きさが極端に増したり、光が走るといった症状もあらわれ、重篤な場合は失明に至ることもあります。網膜剥離には、網膜裂孔(もうまくれっこう)から進行する原性網膜剥離と、基礎疾患が原因となって突然網膜が剥がれてしまう症候性網膜剥離があります。糖尿病網膜症やぶどう膜炎などの疾患が症候性網膜剥離の原因となります。
黄斑部が老化などによって変質し、視力の低下や視界の異常を引き起こします。黄斑は視力の中心部に影響するので、視野の中心がかすんだり黒ずんだり、物が波打つように歪んで見えたりするのが最も特徴的な症状です。進行すると急激に視力が低下することもあります。まず片方の目に異常が起こることが多いのですが、片側の正常な目が異常を補って補正してしまうため発見が遅れてしまうことがあります。
目の網膜の中心部にある黄斑部の裏側に、水が溜まって視野に異常が生じる疾患です。女性よりも圧倒的に男性に多く、30~40歳頃の働き盛りでストレスが多い人がかかりやすい傾向にあります。片方の目の視力が落ちたり、視界の中心部だけが暗く見えたり、歪んだり小さく見えたりします。痛みはなく、自然に治ることも多い疾患なので、日常生活に支障がない場合にはストレスを遠ざけるようにして、とくに治療はせずに経過を見る場合もあります。
動脈硬化などが原因となって、網膜の血管に血液を送る動脈が詰まる疾患です。網膜のどこの部位の動脈が詰まったかによって症状が異なり、網膜の中心部の血管が詰まると、照明を消したときのように視野全体が暗くなり、視力が急激に低下します。網膜の中央から枝分かれした血管が詰まると、視野の一部がかすんで見えにくくなったり、欠けたりします。
角膜は通常自然なカーブを保っていますが、その角膜が歪んだり、デコボコに波打つようになるとピントが合わなくなり、物が二重にぶれて見えるようになります。これが乱視で、強度の乱視になると、視界が歪みます。幼児の強度の乱視は、弱視の原因になることがあります。
視神経を冒す疾患です。ウイルス感染や糖尿病、腫瘍による圧迫、若い女性に多い多発性硬化症という神経系統の難病などの合併症として起こる場合がありますが、原因がはっきりしないこともあります。急激に視力が低下し、視野の真ん中が暗くなる中心暗点があらわれ、目を動かすと痛むこともあります。視神経は繊細な組織で再生機能がなく、病気が治っても現状以上の回復が望めないので、早期の治療が必要です。
脳梗塞は脳の血管内腔の動脈硬化が進行し、血管が狭くなっているところに血液の塊が詰まることによって血流が止まり、脳の組織が破壊される疾患です。血液の塊が詰まると、片側の手足や顔の麻痺、意識障害や言語障害などの症状があらわれ、死に至ることもあります。血液の流れがとどこおった部位によって視野の片側半分が欠けたり、片側の目が見えなくなることもあります。
脳にできた腫瘍が大きくなることによって、周囲の脳組織を圧迫し、脳機能に障害をもたらす疾患です。特徴的な症状は頭痛と吐き気、嘔吐です。頭痛は早朝に痛みを強く感じ、日中にかけて次第に弱くなりますが、日を追うごとに痛みがどんどん強くなります。さらに腫瘍がどこで発生したかによって、記憶力や判断力の低下、手足の麻痺やけいれん、視野が狭くなるなど、さまざまな症状があらわれます。
こめかみ部分の動脈や脳の血管が拡がって血流が増し、その周辺の神経が刺激されて起こる頭痛です。主に頭の片側がズキンズキンと脈を打つように痛むのが特徴で、吐き気や嘔吐、めまいなどをともなうこともあります。片頭痛の前兆として、視界に急に星やキラキラしたものが見え始め、視界の一部が遮られる閃輝暗点(せんきあんてん)という症状が起こることもあります。女性に多くみられ、慢性的に繰り返します。
緑内障は、多くの場合自覚症状がないまま進行していくので、定期的な自己チェックで早期発見につとめましょう。まず、左目を閉じて右目の前に左手の人さし指を立てます。その人さし指を動かして、指の動きを見ますが、耳側が90度、鼻側が60度くらいまで見えるのが正常です。反対の目も同じようにチェックしてみましょう。また、目を閉じてまぶたの上からそっと眼球を触り、硬くなっていると感じるようなときは緑内障の原因となる眼圧上昇の疑いがあります。眼科で診察を受けましょう。
疾患の早期発見には、眼科で定期的に検査を受けることが大切です。眼科では、視力検査、乱視の度数などがわかる屈折検査、眼球の圧力を調べる眼圧検査、視野の異常を調べる視野検査、網膜の異常を調べる眼底検査などが行われます。これらによって、緑内障、網膜疾患の有無や目の異常を発見することができます。
視野が欠けたり歪んだりするなどの視野の異常を感じたら、すぐに眼科で診察を受けましょう。なかには、受診が遅れると失明の危険がある疾患もありますので、放置は禁物です。
加齢黄斑変性症は、近年増加傾向にある疾患で、発症に生活習慣が大きく関わっています。なかでも一番の危険因子といわれているのがタバコです。喫煙者と非喫煙者では、なんと最大5倍も発症リスクが異なるのです。その他には、野菜やフルーツをとることが少ない食生活や血圧が高いことなどが挙げられます。さらに直射日光を浴びることが多い人も要注意です。当てはまると感じた人は、生活習慣を改善して、発症のリスクを軽減しましょう。