こころ 体重減少
体重が減る原因は、大きく分けて、食事の量の減少、エネルギー消費の増大、栄養分の吸収不良の3つがあり、それらが絡み合っていることも少なくありません。ダイエットなどの意図的な体重減少をともなわずに1年で10%以上か半年で5%以上の体重減少がある場合、または標準体重より20%以上体重が減少した場合は、疾患による可能性があります。
ダイエットのために食事の量を減らしたり、低カロリーの食品しかとらない場合、体の脂肪や筋肉が減るため体重は減少します。しかし、極端なダイエットは体にさまざまな障害を引き起こし、神経性食欲不振症(拒食症)に繋がる場合もあります。また、栄養バランスが著しく偏った食事を続けていると、体の機能を正常に働かせるために必要なビタミンやミネラルのバランスが乱れ、健康を維持するのに必要な体重が維持できなくなることもあります。
激しいスポーツでエネルギーを過剰に消費したり、仕事で体を酷使していると、栄養分を体のエネルギーとして利用するために必要な栄養素であるビタミンB、B、ミネラルなどが不足気味となり、消耗して体重が減少することがあります。
緊張や不安など精神的なストレスが続くと、交感神経が興奮状態になり、消化吸収を促進する副交感神経の働きが抑えられて食欲を感じなくなります。また、ストレスが原因で胃炎や胃潰瘍、慢性的な下痢が起こる場合も多く、食事の量が減ったり、消化吸収力が低下したりすることによって体重が減少します。
食事量が増加しているのに体重が減少する疾患には、糖尿病、甲状腺機能亢進症などがあります。また、食事の量が正常、または低下して体重が減少する場合には、悪性腫瘍、感染症、腎疾患、心疾患、消化器疾患、精神疾患、甲状腺機能亢進症、アジソン病などの内分泌系疾患が考えられます。高齢者では、認知症や味覚・嗅覚の異常なども原因となります。
肥満に対する恐怖心から極度のカロリー制限をしたり、指でのどを刺激して食べたものを吐いたり、下剤の乱用などによって20%以上も体重が減少することがあります。女性の場合は3カ月以上無月経が続くこともあります。思春期の女性に多く、やせていくことを喜び、元気で活動的なのが特徴ですが不整脈を起こして突然死することもあります。
膵臓でつくられるインスリンの分泌や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病です。食事から摂取した糖質をエネルギーとして利用できなくなり、かわりに脂肪や筋肉中のたんぱく質が分解されてエネルギー源として利用されるため、体重が減っていきます。肥満や老化、遺伝が発症に関係していると考えられています。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患です。代謝が促進されるために、食欲があってたくさん食べているにもかかわらずやせていきます。甲状腺の腫れや眼球の突出、手のふるえ、動悸などの症状もあらわれます。自己免疫の異常や遺伝が関係していると考えられ、多くは20~30代の女性に発症しますが、男性の発症もめずらしくありません。
胃痛や胃もたれ、吐き気、食欲不振などの症状により食事の量が低下し、体重が減少します。慢性胃炎は、ストレス、食べすぎ飲みすぎで起こると考えられ、繰り返されると胃潰瘍に進行することがあります。胃潰瘍の場合は食事中から食後にみぞおち周辺が痛みますが、十二指腸潰瘍では早朝や空腹時にみぞおち周辺が痛み、食事をとると治まるのが特徴です。これらの疾患は、ピロリ菌の感染が主な原因になります。
大腸の粘膜に潰瘍やただれができる炎症性の疾患で、ここ数年患者数が急増しています。20代の若い人に多く発症し、非常に再発しやすいという特徴があります。主な症状として、下痢にともなう粘血便があらわれます。重症になると発熱や腹痛が生じます。長期間下痢が続くため、体重の減少がみられることが多くあります。
体に必要な栄養素と水を吸収できない障害があるために、栄養が不足して体重が減少します。その他、慢性的な下痢、全身のむくみ、貧血、口内炎などを引き起こします。また、脂肪が多く含まれる脂肪便が排出されます。通常の便は便器の水の中に沈みますが、脂肪便は浮くのが特徴です。
発症に塩分の過剰摂取やピロリ菌が関与しているとされる胃がんは、初期にはほとんど症状があらわれません。進行すると、胃痛や胸やけ、嘔吐、吐血などがみられ、それにともなう食欲不振や体重減少が起こります。胃がんにかかる日本人は非常に多く、男女ともにがんによる死亡原因の第2位となっています。これには、塩辛い食べ物を好む日本人の食生活が関係していると考えられています。
食物繊維が少なく動物性脂肪の多い食生活と関連があるとみられている大腸がんは、初期には検査でわかる血便以外、ほとんど症状があらわれません。進行すると肉眼でわかる血便が出たり、さらに腹部にしこりを感じたり、便が細くなったり、便秘や下痢、腹痛といった便通異常などの症状があらわれることがあります。これらの便通障害や食欲不振によって体重が減少します。
結核菌という細菌に肺が感染して起こります。せき、たんや肉眼では確認できない微量の血が混じったたん、微熱などの症状が2週間以上続くと同時に、食欲不振や倦怠感、体重減少などが起こる場合があります。結核菌は、せきなどによって感染が広がる可能性がありますが、初期症状が軽いため、感染に気付かないこともあります。感染者数は一時減少したものの、最近では療養施設等でのお年寄りの集団感染や、新しい結核菌の登場によって再び増加しています。
特別な疾患がないのに、だるさや疲れがとれず気力が低下したり、落ち込んだりして興味や楽しい気持ちを失い、それを自分の力で回復するのが難しくなる疾患です。多くの場合、食欲が減退し、食事の量が低下して体重が減少します。その他睡眠障害、集中力の低下をはじめ、体の動きが鈍ったり、逆にイライラして焦る気持ちが強くなったり、疲れが激しくなるなど、心と体の双方に症状があらわれます。
結核や自己免疫の異常などにより、副腎皮質ホルモンの分泌が低下する疾患です。疲労感、食欲不振、体重減少などがあらわれ、皮膚に色素沈着が起きて顔や手の甲などが黒くなったり、口の粘膜に黒いしみができるのが特徴です。頭痛、めまい、下痢、吐き気や嘔吐などの他、性欲減退をもたらすこともあります。
極端な偏食や無理なダイエットを避け、たんぱく質、脂質、炭水化物(糖類)、ビタミン、ミネラルを毎日の食事の中でバランス良くとりましょう。カロリーの過剰摂取は生活習慣病の原因になりますが、不足するとエネルギー不足になり、抵抗力の低下などさまざまな障害が引き起こされるので注意が必要です。
休日は仕事のことを忘れる、悩みごとは早めに人に相談するなど、ストレスを溜めないようにしましょう。スポーツや趣味など、自分に合ったストレス解消法を見つけることも大切です。また、質の良い眠りは、ストレスに強い心身をはぐくみます。40℃以下のぬるめのお湯にゆったりとつかってリラックスしたり、寝る前に軽いストレッチを行うなど、なるべく深い眠りが得られるように工夫をしましょう。
食欲不振が続いて体重が減少したり、たくさん食べているのにやせる場合は、内臓の疾患や内分泌系の疾患が疑われますので、主治医の診察を受けましょう。神経性食欲不振症の場合は家族が気を配り、心療内科に相談しましょう。
麻薬や覚せい剤などの薬物を乱用しているうちに、その薬物なしにはいられない状態になることを薬物依存といいます。日本では取り締まりが厳しいため、外国に比べて中毒者は少ないといわれてきましたが、最近では若者のあいだに薬物依存が広がっています。使用すると気分の高揚や陶酔感が得られますが、食事をきちんととらなくなったり、栄養分の吸収や代謝が阻害されるため、体重が減少していきます。常用すると精神障害をきたし、犯罪に繋がることも多いため、薬物に対する正しい知識をもつことが大切です。