胃・腸 嘔吐
嘔吐は胃や腸の内容物が食道を経て、口から吐き出される現象です。通常は吐き気をともないます。胃の中の異物や刺激物、毒物を吐き出す一種の防御反応ですが、消化器をはじめとする内臓や脳の病気など、さまざまな疾患が原因になり、生命に係わる危険信号になっていることもあります。
アルコールが体の中で分解される過程で、有害物質のアセトアルデヒドがつくられます。体質にもよりますが、通常アセトアルデヒドはすぐに分解されます。しかし、アルコールを飲みすぎると分解が間に合わなくなり、嘔吐が起きます。また、自分の許容範囲を超えた食事量でも吐き気や嘔吐を起こすことがあります。
胃腸の働きは自律神経のバランスが密接に関わっています。ストレスなどによるイライラや、不安、緊張が続くと自律神経のバランスが乱れ、胃の粘膜を刺激して吐き気や嘔吐などを引き起こすことになります。
乗り物に乗っているときは、上下左右の揺れ、カーブや回転、速度や加速度などの変化を内耳の器官が感じとって脳に伝えています。しかし、人によっては異常な刺激と感じることがあり、その結果、自律神経のバランスが崩れ、吐き気、嘔吐、冷や汗、頭痛やめまいなどが引き起こされます。
腐った食品や毒性のある食品を食べると、激しい胃の痛みとともに、吐き気、嘔吐を起こすことがあります。なかでもよく起こるのが、秋のきのこ狩りで採ったきのこや、海外でのなま水、ふぐなどによる食あたりです。また、近年はカキやシジミなどの魚介類に生息するノロウイルス、生肉などに生息するO157(病原性大腸菌)による食中毒も多くみられます。
妊娠初期に起こるつわりでは、朝の空腹時などに胸のむかつきや強烈な吐き気に襲われ、吐くものの少ない嘔吐に苦しむことがあります。妊婦の50~80%が経験するというつわりは、約6~8週間続きますがそれ以降はおさまります。つわりが起こる原因は、ホルモンのバランスの変化や心理状態が関係しているのではないかと考えられています。
異物がのどに詰まると、体がそれらを吐きだそうとする防御反応として嘔吐が起きることがあります。乳幼児は玩具、ボタンやピーナッツなどを、お年寄りでは義歯、魚の骨、大きめの錠剤やカプセル剤などをのどに詰まらせることが少なくありません。また、洗剤などを誤って飲んでしまうことでも嘔吐が起きます。
嘔吐の原因として疑われるのは、まず急性胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がん、虫垂炎、腸閉塞などの胃腸の疾患です。その他膵炎、片頭痛、内耳の異常から起こるメニエール病や脳出血、脳腫瘍などがあります。
食べすぎ飲みすぎやストレス、ウイルス、ピロリ菌の感染、食中毒、アレルギーなどが原因で胃の粘膜がただれ、みぞおちが突然キリキリと痛むことがあります。胃痛の他に、吐き気や下痢をともなうこともあり、ひどい場合は嘔吐や吐血、下血を起こすこともあります。多くの場合、安静にしていれば2~3日で治まります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、ピロリ菌や非ステロイド性鎮痛剤、ストレスなどが主な原因で起こると考えられています。強い胃酸と消化酵素によって胃や十二指腸の粘膜が局所的に欠損する疾患です。胃潰瘍は食事中から食後にかけてみぞおち周辺に重苦しい痛みが起こりますが、十二指腸潰瘍は早朝や空腹時にみぞおち周辺がシクシクと痛み、食事をとると治まるのが特徴です。共に胃もたれや吐き気、嘔吐、食欲不振をともないます。
内臓を包んでいる腹膜が細菌に感染して炎症が起きる疾患です。急性虫垂炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどで胃や腸に穴が開いたり、腸閉塞によって組織が部分的に死滅する壊死などが原因となります。代表的な症状は腹痛ですが、その他に発熱、吐き気、嘔吐、呼吸障害などがあります。適切な処置を行わないと生命に係わる場合もあります。
盲腸の先についている虫垂という部分に炎症が起きる疾患です。突然みぞおちやおへその部分が痛くなり、次第に右下腹部へと痛みが移動するのが特徴で、吐き気や嘔吐、発熱をともないます。放置すると重篤な腹膜炎を起こす危険性もあります。10~30代に多く発症し、暴飲暴食、過労などが引き金になって起きると考えられています。
腫瘍や腸の動きの障害、腸のねじれなどによって、腸が詰まり、そこから先に腸の内容物が運ばれていない状態です。腸に便やガスが溜まり、強い腹痛、お腹の張り、吐き気や嘔吐といった症状がみられます。
急性膵炎の多くは、胆石症やアルコールの飲みすぎが原因で起こります。みぞおちに激しい痛みが生じますが、膵臓が背中の方に位置しているために、背中や肩にまで痛みがあらわれることがあります。同時に吐き気や嘔吐、発熱をともない、体を丸めると痛みが多少軽くなるように感じるため、エビのように体を丸めてしまうことが特徴的です。
こめかみ部分の動脈や脳の血管が拡がって血流が増し、その周辺の神経が刺激されて起こる頭痛です。主に頭の片側がズキンズキンと脈を打つように痛むのが特徴で、吐き気や嘔吐、めまいなどをともなうこともあります。女性に多くみられ、慢性的に繰り返します。
自分や周囲がぐるぐる回るめまいと、どちらか一方の耳にだけ起きる耳鳴り、そして難聴の3つが同時に起き、多くの場合、強い吐き気や嘔吐をともないます。過労やストレスが引き金になることがあります。危険な疾患ではありませんが、放置すると耳鳴り・難聴が進行します。
くも膜の内側の動脈が破裂するくも膜下出血が起きると、突然激しい頭痛と吐き気、嘔吐を生じ、意識を失って危険な状態に陥ることがあります。細い動脈が破れる脳出血では、激しい頭痛や吐き気、嘔吐、手足のマヒ、片マヒ、大きないびきなどの症状があらわれます。脳腫瘍の場合は強い頭痛や吐き気が起き、腫瘍ができた場所によっては視力障害、言語障害などさまざまな症状があらわれます。
胃に負担をかけないように、暴飲暴食を避けましょう。刺激物や脂っこい食事を控え、消化の良いものを選ぶことが大切です。アルコールは適量を守り、自分のペースでゆっくり飲みましょう。空腹状態で飲むと急に血中のアルコール濃度が高くなり吐き気や嘔吐が起きやすくなりますので、つまみ類を食べながら飲むようにしましょう。
日々のストレスは体に大きな負担をかけ、吐き気や嘔吐の原因になることもあります。読書、お風呂や音楽鑑賞など、毎日できる自分に合ったストレス解消方法をみつけ、ストレスと上手に付き合っていきましょう。
乗り物酔いによる吐き気や嘔吐を防ぐには、まず睡眠を十分にとり、下痢や便秘があれば治しておくなど体調を整えておきます。乗り物に乗ったら揺れの少ないところに座り、立ったり歩いたりは控えましょう。遠くの景色を見たり窓を開けて新鮮な空気に触れたりすると酔いにくくなります。酔い止めの薬を乗る1時間くらい前に飲んでおくと良いでしょう。
気温も湿度も高く、食あたりが増える6~9月頃の時期は、食品は必ず冷蔵庫で保存しましょう。さらに、まな板や包丁などの調理器具を清潔にする配慮も欠かさないようにしましょう。また気をつけたいのは海外旅行中の飲料です。なま水は避け、屋台などでの果汁飲料や氷にも注意が必要です。
嘔吐したあとの口の中の臭いで再び吐き気や嘔吐が誘発されることがあります。冷たい水や塩水、レモン水などでうがいをすると、口の中の洗浄ができて気分的にもスッキリとします。また、吐しゃ物の臭いでも吐き気や再嘔吐をもよおすことがありますので、速やかに片づけることも大切です。ただし、ノロウイルスは吐しゃ物などを介して感染しますから、片付けるときはゴム手袋とマスクで感染を予防しましょう。
嘔吐が続いたときは、脱水症状を防ぐためにも水分をとる必要があります。しかし、嘔吐が治まってすぐに飲みものを飲んでしまうと、再び嘔吐することもあります。嘔吐が治まり、落ち着いてから水分をとるようにしましょう。
二日酔いによる吐き気や嘔吐には胃腸薬を服用しましょう。また、ストレスからくる胃腸症状として嘔吐が起きる場合は、神経性胃炎に効能のある胃腸薬が効果的です。最近では症状ごとに選べる新しいタイプの漢方処方の胃腸薬もあります。
飲みすぎや乗り物酔いで起こる嘔吐は原因もわかり一時的なものなので、急性アルコール中毒以外は心配はいりません。しかし、激しい腹痛や頭痛をともなうようなときや、急に起こる原因のわからない嘔吐は、くも膜下出血や脳出血など命に関わる疾患のサインの場合もあります。このようなときは、すぐに救急車を呼びましょう。また、長期間強い頭痛をともなう吐き気や嘔吐が続く場合やめまいなど嘔吐以外の症状をともなうようなときは、病院のめまい外来や脳神経科で診察を受けましょう。
1~2カ月の赤ちゃんがお乳を飲んだ後、機嫌が良いのにお乳を口から出すことがあります。これはお乳が口からあふれ出ているだけなので心配はいりません。しかし、噴水状に勢い良く吐きだした場合には、消化器の通過障害などが起こっていることもありますので、ただちに小児科医に診てもらいましょう。また、突然激しく泣きだし、何度か嘔吐したりイチゴジャム状の血便がみられるときは乳児に多い腸重積症が疑われますので、すぐに主治医に相談するか小児科の診察を受けましょう。