胸・肺 息切れ
呼吸が激しく苦しくなるのが息切れですが、健康な人でも、全力で走ったり階段を駆けのぼったりすると、息切れを起こします。しかし、激しく動いたわけでもないのに息切れを起こすのは、心臓や肺、脳などに異常が起きているサインです。これらの器官に問題があると、呼吸の機能に障害が出て体内の酸素が不足し、息切れの症状があらわれるのです。
運動をするとき、体はたくさんの筋肉を動かすためのエネルギーを必要とします。そこで呼吸によって酸素を取り入れ、その酸素を使って体内のブドウ糖などをエネルギーに変えています。激しい運動をしたときほど大量の酸素を必要とするため、酸素を多く取り入れようと呼吸が早くなって息切れを起こすのです。また、運動不足だと、心臓が血液を送り出すための筋力が弱くなり、息切れを起こしやすくなります。
体重の増加にともなって体が大きくなると、体はその分多くの酸素を必要とします。肥満では心臓はたくさんの血液とともに酸素を体中に送ろうと、活発に活動します。すると心臓に大きな負担がかかり、息切れや動悸が起こりやすくなります。
脈拍や血圧などを調整している自律神経が過労や過剰なストレスによって乱れると、息切れや動悸が起こりやすくなります。また、ストレスを感じると無意識に呼吸が浅くなる傾向にあります。浅い呼吸で肺に十分な酸素が送られないことで、息切れを引き起こすことがあります。
息切れの原因となるのは、主に呼吸器疾患、循環器疾患、脳の血管障害です。呼吸器では慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、過換気(呼吸)症候群などが疑われます。循環器では心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈が、また脳の血管障害ではくも膜下出血、脳梗塞、脳出血などの疾患が考えられます。他にも貧血、更年期障害、甲状腺機能亢進症が息切れの原因となることがあります。
長年の喫煙習慣が原因の90%をしめる疾患です。近年増加しており、世界の死亡原因の第4位となっています。喫煙によって慢性気管支炎や肺が弾力を失う肺気腫を引き起こし、せきやたん、息切れが続くようになります。30~40年近くかけてゆっくりと肺の機能が低下して徐々に呼吸が苦しくなり、最終的には呼吸不全になることもあります。
慢性の気管支の炎症や、アレルギーによって気道が過敏になって狭くなる症状があらわれると、息が苦しくなる発作を繰り返します。喘息の発作時には、のどが詰まる感じがあらわれ、次いでせき、たん、ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸音(喘鳴・ぜんめい)、呼吸困難が続きます。息を吸うときより吐き出すときの方が苦しくなるのが特徴です。
鉄分の不足などが原因で、酸素と結合して酸素を体のすみずみまで運ぶヘモグロビンが減少し、血液中の酸素濃度が薄くなった状態です。ヘモグロビンの数値が男性は13.0g/dl以下、女性は12.0g/dl以下になると、貧血とされています。体内の酸素が不足するためにだるさや倦怠感、息切れ、めまいなどの症状が起こります。
閉経前後の約10年間をさす更年期を迎えると、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少により自律神経のバランスが崩れてほてり、のぼせ、イライラ、息切れ、動悸、めまいや肩こりなど心と体にさまざまなトラブルが生じます。顔が突然カーッと熱くなって首や背中に汗が流れる症状はホットフラッシュと呼ばれ、更年期障害の前半にあらわれることの多い症状です。
のどぼとけの近くにある甲状腺から、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患です。甲状腺ホルモンの代謝亢進作用によってのぼせやほてり、多汗、手が震えたり、息切れや動悸の症状が起こります。その他疲労感や体重の減少、甲状腺の腫れ、目が突き出るなどの症状があらわれます。20~30代の女性に多く発症します。
心筋梗塞や不整脈などのさまざまな心疾患が原因で、心臓の機能が低下し、体に十分な血液を送り出すことができなくなった状態です。全身の血液循環が悪くなるために肺にうっ血が生じ、呼吸困難、息切れや動悸が起こります。胃腸や肝臓にうっ血が生じると、食欲不振や嘔吐、腹部膨満感などもみられるようになります。
心臓の筋肉に血液を送り込む冠動脈が脂質異常症や糖尿病によって、血管が動脈硬化で狭くなり、血流が不足しやすい状態に陥ります。そして、階段の昇降時や寒い日など心臓に負担がかかったときに、数分程度一時的に酸素が不足して、胸が締め付けられるような痛みや息苦しい発作を起こします。
心臓の筋肉に血液を送り込むのが冠動脈です。その冠動脈が動脈硬化を起こして内腔が狭くなると、血液が固まってできる血栓が詰まり、血流が完全に止まってしまうのが心筋梗塞です。突然、胸に激痛が起こり、痛みは30分から数時間続くことがあります。血流が止まると心筋の壊死がはじまり、その範囲が広がると、血圧が低下して顔面が蒼白になるとともに、吐き気や冷や汗などがみられたり、意識を失って死に至ることもあります。
脳内の血管が破れて出血するのが脳出血です。その血管下流への血流がなくなったり、脳の中に出血した血液の塊ができ、それが周囲の組織を圧迫したりして脳の組織の破壊や障害が進みます。小脳や脳と脊髄をつなぐ脳幹部にこれらの障害が起きると、息切れや激しいめまい、頭痛、吐き気・嘔吐、手足のまひなどの症状があらわれます。
心拍動が標準値(1分間に60~100回程度)を外れて、拍動が多すぎたり少なすぎたり、または心拍動のリズムが乱れるのが不整脈で、息切れや動悸、胸の不快感などを感じます。低血圧や失神、意識消失や心停止に至ることがあり、生命の危険にさらされることがあるので、心臓や循環器の専門医への受診が必要です。
過剰な精神的ストレスが引き金となって、突然浅く速い呼吸を繰り返す疾患です。動悸や酸欠状態のような息苦しさを訴えます。呼吸の回数が増えることによって血液中の二酸化炭素が過度に減少し、めまい、手足のしびれや筋肉のこわばりなどとともに呼吸速度が速まり、ときに失神することもあります。早まった呼吸を低下させるためには、紙袋で口と鼻を覆い、呼吸をするペーパーバック法が有効です。
日々の食生活を見直すことで、心臓への負担を減らすことができます。第一に血圧上昇の大きな原因となる塩分を控えること。減塩しょうゆを使ったり、塩分の代わりに酢や香辛料で味付けするなどの工夫をしましょう。また、急激な血糖値の上昇を招く早食いは厳禁です。ゆっくりと良く噛んで食べれば血糖値の上昇を抑えられ、満腹感も得られます。
肥満は心臓に負担をかけると同時に、あらゆる生活習慣病を呼び寄せる危険因子です。日々の食生活や運動に気を配り、肥満を解消していきましょう。ただし、急激な食事制限によるダイエットは続かず、しかもリバウンドする可能性も高くなります。ウォーキングなど、心臓に負担をかけない軽い運動と1日1600~1800kcalという摂取カロリーを守る食生活を続け、長いスパンで体重を落としていくことをおすすめします。
運動不足になると、筋力が落ちて心臓の働きも弱り、少しの運動で息切れします。適度な運動を続けて血液の循環を高めていきましょう。そのためには、ウォーキング、水中ウォーキング、ラジオ体操などの有酸素運動を1日20~60分、週に3日以上行うのが良いでしょう。
体が急激な温度変化にさらされると、血管が収縮して血圧が急上昇し、心臓に大きな負担がかかります。暖房の効いた室内から外に出るときや、逆に夏に暑い戸外から冷房の効いた室内に入るときにも温度差が大きくなりすぎないよう、衣類などで調整しましょう。冬には、トイレや脱衣所、浴室などを温める工夫も必要です。
アルコールやコーヒーの飲みすぎは血流を増やして血圧を上げ、心臓に負担をかけます。また肥満や動脈硬化にも繋がるので、適量を守ることが大切です。ビールなら大びん1本、日本酒なら1合、ワインでグラス2杯程度に留めましょう。また、週に2日は休肝日を設けましょう。
タバコを吸っていると血圧が上がり、心拍数を早めるため心臓に負担がかかります。また、血圧だけでなく体全体に悪影響を及ぼしますので、禁煙が一番。何度も禁煙に失敗しているという人は、ニコチンガムやニコチンパッチなど禁煙補助薬の助けを借りてみるのも一つの方法です。
時間に追われる緊迫感や仕事のプレッシャーなどのストレスは、心臓に負担をかける原因となります。疲労やストレスが蓄積しないように、無理のないスケジュールを立て、つねに時間にゆとりをもって行動しましょう。また、少しでも好きなことをする時間をもつこと、十分に睡眠をとることも大切です。
多くの息切れは、楽な姿勢になって安静にすることで自然におさまります。気管支喘息の発作では、横になるとより苦しさが増しますから、座って安静にするといいでしょう。安静にしていても息切れが起こるようなときは、病院で診察を受けましょう。
平坦な所での歩きや着替えなど、日常のなんでもない行動で息切れするような場合や、坂道や階段を上ったときに息切れと同時に胸の痛みが起こるようなときには、主治医や内科や呼吸器科、循環器科で診察を受けましょう。
日頃からよく息切れするような場合は、心臓か肺に問題がある可能性があります。そこで、それぞれの特徴から、どちらに原因があるのか見極めることも大切です。まず心臓に原因がある場合、(1)寝ているときに息が切れ、苦しくなる、(2)手足が冷えやすい、(3)体がむくむというのが特徴です。一方肺に原因がある場合は(1)座ると息が楽になる、(2)せきやたんが出る、(3)息切れのときに、ゼーゼーという音が出るというのが特徴です。それぞれ2つ以上当てはまれば、一刻も早い受診が必要です。